明日の朝まで、おやすみ。

 「あ。あー…。あ、もしもし。ヨツモリです。こんばんは。あ、夜分遅くに申し訳ありません。って、最初に言えってか。ええと、なんだ、上手く喋れないなあ。電話って、苦手なんだよなあ。まあ、そんなことはいいか。
 元気?まあ、昨日会ったばっかだけど。まあ、元気そうだったけど。元気だと思うんだけど。やっぱ元気じゃなかったかも、とも思って。気になったから、電話したんだけども。
自分には偉いことなんて言えんし、大きいことも言えんし、こういうの、ただの嫌味にしか聞こえないんじゃないかとも、思ったんだけど。でも、なんとなく自分の中で、違う、って思ったんだ。違和感、ていうか。なんかずっともやもやしてて、今日一日潰れたくらい。本当、ずっと考えてた。
 たしかに、完璧な世界なんて、ないかもしれない。結論から言うとさ、自分にはわかんなかった、そういうこと思い付きもしないからさあ。人間は欠陥ばかりでさ、それに落ち込んだり嫌になったり気に病んだり、するよ、誰でも。けど、それだけで完璧じゃないなんてさ、勿体ないっていうか、なんだろう、とにかく勿体ないよね、たぶん。
 世界が、どこからどこまでなんて、よくわからない。人間が勝手に線引きしてんだよな、って、言われてから気付いた。世界が狭いのか広いのか、それも人間が決め付けちゃうことなんだろうね。完璧な世界って、どこまでのことなの。
 宇宙って、ずっと、膨張しつづけてるんだって。
 いつまでも広がって、余白なんて信じられない。本当に、膨張してるのかも、目で見ることもできない。いつの間にか膨らみすぎて、パンクしないんだろうか。
 なんか、怖くなるよね。
 でもきっと、そこまで広がった世界を、見ることはないんだろうけど。
 ああ、なんだっけ。何話してたんだっけ。世界について?そんなでかいことを、言うために電話したんじゃなかった。
 元気なら、それでいいんだ。
 完璧な世界が、ともかく、どんなものか自分には想像できないんだけど、世界の中には、自分がいるよ。そんでさ、お前もいる。それだけは、わかった。
 もし、完璧な世界に自分が必要ないなら、出ていくよ。その世界から、出ていく。元気になってくれるなら、それぐらい、できるよ。
 自分の世界なんて、簡単に壊せるさ。
 あ、明日になっちゃった。明日じゃないか。今日か。もう、今日か。
 随分一人で喋っちゃった。
 ねえ、聞いてた、コカゲ。
 寝ちゃった?」
「うん。聞いてたよ、ヨツモリ。眠いから、もう寝るよ。」
「うん。それなら、よかった。」
「うん。いい夢が、見れそうになった。」
「そっか。じゃあ、おやすみ、コカゲ。」
「おやすみ、ヨツモリ。」



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