パプリカ&トマトサラダ

 遠野都子は考えていた。
 どうして、うまくいかないのだろう。
 都子は自分の手の中にある、赤いパプリカと、熟れすぎたトマトを見て、血の色のことを思い浮かべていた。
 自分の中に流れているのは、血液で、それは人間として当たり前なのだ。何も疑うことはない。切れば出てくるのは赤い血だということ。疑うことはない。
 「…ばからしい」
 ダン、とパプリカを縦半分に切った。今日は半分しか使わない。
 細く長く、パプリカを切っていく。
 パプリカとトマトのサラダ。なんて色合いが悪いんだろう。わかっている。わかっているのに、どうしてか、今日はそれを作りたい気分。
 暑すぎる、今日。都子は自分の体にはりついているようなボーダーのタンクトップを見た。これも、赤いボーダー。
 どうかしている。
 トマトをくし型に切り、皿に盛り付ける。
 あか。あか。あか。
 ドレッシングはかけない。生のまま、食べる。
 シャリ、とパプリカに歯形をつけた。小さくついたその歯形に、都子は自分のものだという実感がわかない。
 今度は、トマトを食べる。
 うまく食べられず、とろりと、トマトの種が太ももに落ちた。
 ティッシュペーパーを手に取り、ごしごしごしごし、とそれはもういい加減布が擦り切れてしまうくらいに、拭く。
 もうトマトのあとは、とれている。とれているのに、都子はやめない。泣きそうになりながら、ひたすら拭く。
 都子は目を閉じた。どうにか、涙が外に出てしまわぬように。自分の体の内に、すべてをとどめるように。
 どうか、どうか、自分から、何もいってしまわないで。
 都子は、苦しい喉元を押さえつけるように、一気にパプリカとトマトを食らった。
 あかくなれ、あかくなってしまえ、体中。
 遠野都子は食べ終えた皿とフォークを洗いながら、考える。
 うまくいかないのに、私は食べて、どうにか生きていくらしい。



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