それだけで、よかった。
二人、並んで、白い雪に、足あとをつけながら、歩いた。
「このあたりの雪は、白くて、すごいね。」
彼女は、キシッキシッ、と雪を踏みしめて言う。
「雪って、普通、白いものじゃない?」
彼は、彼女の顔を覗き見て、少し笑う。
「私の住んでいたところは、みんなが踏みつけてしまった、真っ黒な雪しか、転がっていなかったよ。それか、すぐに、融けてしまったから。」
ああそうか、と彼はちょっと空を仰ぎ見て、降る雪を前髪につけた。
「でも、寒いかもね。」
くすくすと、彼女は笑う。そして、彼の前髪につく雪を、ぱさぱさと落とした。
彼も、くすくすと、笑う。
「まあ、冬だからねえ。」
「それは、知ってるよ。」
二人、またちょっと笑って、それから黙って、ゆっくりと、歩いた。
雪は、どんどんと、白い空から降ってきて、それは、羽根みたいね、
と彼女が言うように、ふわふわ、ふわふわ、と。
この道をずっと行ったらば、どこに着くのかなあ。
そう言って、二人、ずっとずっと、歩いている。
「後ろを振り向いたら、きっと、長く、私たちの足あとが、ついてるかなあ?」
「うーん…どうだろう。見てみる?」
そろりと、二人、振り返った。
そこには、もう消えかけの、足あと、二人ぶん。
「雪が、すごいからねえ。」
「うん。」
二人はなんとなく、どちらからともなく、手をつなぎ、じっとじっと、消えていく足あとを、見つづけた。
「これじゃあ、たどって、帰ることもできないね。」
笑うこともなく、彼は言う。
「そうだね。」
「どこに、着きたいのかなあ、僕らは…。」
ああ。やっぱり。
ああ。やっぱり、彼は、帰りたがる。
「たぶん、このままじゃあ、どこにも、着かないんじゃないのかなあ…。」
ああ。やっぱり、彼女も、帰りたがる。
じっくりと、普段は見ない、二人ともの顔を、眺め合った。
「鼻が赤くなっちゃってるねえ。」
「そっちこそ。」
二人、じわっじわっ、と笑顔がこぼれる。
ちょっとだけ、きゅっ、とつなぎ合った手を、強く握った。
どちらからだったかは、わからないけど。
笑んだまま、俯いて、二人、同時に、歩き出す。
本当に、帰りたいの?本当は、どこかにいきたいの?
わからない。わからないままに、二人、また、歩き出す。
「雪が、冷たいね。」
彼女は、彼を見上げて、微笑んで、言う。
「ちょっと、みぞれになってきちゃったねえ。」
彼も、彼女を見て、微笑んで、言う。
二人は、二人で、歩いていく。二人は、二人で、生きていく。
それだけで、よかった。
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